始祖の日乗

空家を探訪したりミステリを読んだり

ジャックポット 筒井康隆

ただ風が吹き抜けていくだけ

 

ジャックポット

ジャックポット

 

 そうか。

 こういう作品集だったのか。情弱のそしりは免れまい。筒井伸介氏が昨年2月にお亡くなりになったことをおれは全く知らずにいた。本書に採録されている短編のほぼ半分はそれ以降に雑誌掲載されたものだ。

 冷たいとか重いとか暗いとか哀しいとか。そうした感情とは全く違うもの。ただ風が吹き抜けていくような。そして、この世に生きているということは、つまりはこの風になぶられている、それだけのことなんだと。

『川のほとり』はその風そのものを淡々と書いた小品。こうした出会いはおれも父とか友とかと何度もしている。しかし、そういうのとは違うのだ。そう分かっているからこそ。

 おれの心の中に生じたものは、このままそっとしまっておきたい。だから余計なことなのだが、なにか書いておきたかったので。

 ※表紙装画は筒井伸介氏による。